今月のひと言
毎月の発送物に記載している『今月のひと言』から抜粋した文章を紹介します
2024年06月
間に合いますか?と受験学年の生徒に聞かれることは少なくありません。「間に合わせますか?」と質問返しをしたい言葉を飲み込み、やっぱりあきらめるにはまだ早い!と背中を文字通り叩きたくなります。SNSや世間ではライフハックや時短などの目を見張る情報に溢れ、試してみたい衝動に駆られることも少なくありません。話題の動画から得たレシピで美味しい食事もできますが振り返ってみるとそのノウハウも自分の知識や経験の運用で到達できることに気がつきます。受験生たちにとって隣の芝生は青々とまぶしく見えるものですし志望校判定がDからCに上がった級友の勉強法に託してみたい欲も湧きます。が、でも、しかし。自分の脆さを認めつつそれでもこれまでの取り組みを軸につづけていきましょう。小さな水滴がやがて石に穴を開けるごとく、容易に「ムダだった」「意味がなかった」と切り捨てず『自分』を大切にしたいです。
2024年05月
ある生徒との会話で「勉強がとてもできる友だちから『勉強の仕方なんか分からない』って言われた」と半ば不興の表情を浮かべられました。その生徒からすると魔法の言葉がほしかったのだろうと思います。また、個別指導をお求めになる動機のひとつとして「勉強の仕方が分かっていない」という切実なお声があります。勉強の仕方…。一定して5科450点以上をとる生徒に意見を聞いてみました。「知りません」と即答です。彼に逆質問され通り一遍の回答を差し出します。曰く、繰り返す。短時間でやる。きちんと修正する。音読する等々。仮に冒頭の生徒にこれらを説いて、彼/彼女は満足してくれるでしょうか。さて質問に答えてくれた生徒と私とは(勉強に関して)『しんどい方を選択する』という価値観を共有しています。勉強の仕方が分からない不安を軽視するつもりは毛頭ありませんが、ここにひとつの答えがあるような気がします。
2024年04月
思うような結果が伴わない理由のひとつとして、『つもり』学習(あるいは『つもり』思考)が挙げられます。『見て』覚えたつもり、『読んで』覚えたつもり、『書いて』覚えたつもり、と大人であれば回避できるような罠を子どもたちはいつも簡単に「勉強しているのに…」と転化しています。この脱却には自分で繰り返しテストをする以外ありません。本当に覚えているか、解説/解答を自力で再現できているか。塾においてもチェックテストは欠かせません/欠いていませんが、もちろん量的にも限界があります。その他、とりあえず暗記作業から始める、という失敗例もあります。全体像を把握しないまま構造化を図っても効果は期待できません(≒設計図や資材のない建築)。お家で教えてもらって出来た!という事例もありますが、教わって(or教えて)満足するだけにとどめず、自力で再現できているか、この確認を怠らぬようしたいです。
2024年03月
いわゆる進学校に通う中高生たちの中で、過信とは言わないものの以下の悪癖(多くは中学受験時の習慣)がその進行を妨げている現実があります。その筆頭に『答え合わせ=答え写し』から抜け出せていない生徒の多いことが挙げられます。中受時代、大量の宿題をこなすために習得した処世術でしょう(そして塾側もそれをいちいち指摘しない≒やった事実のみ評価する)。「アなるほどね、そういうことね」という物分かりの良さは理解できますが、実際に自力で再現するタイミングになって「あれ、できる/覚えていると思ったのに…」という事態になるケースが少なくありません。進学校中間層にはびこる反復忌避の態度もまたこの現実と合わせ鏡になっています。小学生時代の学習経験による部分が大きいと塾側の人間としても考えるところ大ですので、『とりあえず終わらせろ』式の課題で納得しあうことないよう、その中身も問うていきます。
2024年02月
「説明してごらん」と塾の授業では待ちます。もちろん自分には分からないものだと最初から諦めたり「ええと…」と繰り返すだけの時もあります。が、〇〇くんは言葉を尽くして説明しようという意思をお持ちですので、これから少しずつ質と量とを上げていっても対応していけると思います。受験生予備軍のはじまりとしての小4という一年間をどのように過ごすか、成長の一歩をしっかりと見守っていければという思いです。さて、ゲームの愛好について。ゲームが探究心や向上心だけでなくタスクを達成するための地道さを奨励する貴重な機会である一方で、容易なリセット横行や都合主義的な側面も否定できないかと思います。過度に物事を時短でこなす発想も強くなるかもしれません。この点などがこれから心の成長を果たしていく上で障壁とならないようにしたいです。理想は思いっきり遊んで(≒ゲームして)思いっきり勉強する、ですね。
2024年01月
いわゆる好成績を収めている生徒たちの特徴を観察しますと、勉強量が多いとか宿題を真面目にやってくるとかといったよくある特徴では語れない部分に気がつきます。目立つ特徴のひとつとして、①説明できる、といった観点は小さくないと思います。これは勉強だけでありません。日常のこと、社会的事象、そして『自分が感じたこと』に対して自分の言葉で説明ができるお子さんが当てはまるかと思います。また、②想像できる(自分に置き換えられる)、といった意欲も欠かせないと思います。想像するためには語彙や経験の量は言うまでもありません。このように書き出しますと、学力向上には『明るく生きる』という表現が個人的にはしっくりきます。ズルをせず、正々堂々と、高感度のアンテナで、時には空気も読まないで、自信をもって毎日を過ごすことが大事かと。そしてそのための準備を怠らない。塾の取り組みでも目指したい部分です。
2023年12月
オリンピックイヤーとともに20年代という新たなディケイドの出発点がまさかのコロナ禍の只中となり、生活は変容し少なくない価値が更新されました。あれからあっという間に今年もオリンピックイヤーを迎えることとなり、たまたまと言われるアメリカ大統領選との重なりでいやが上にも『世界(あるいは『他所』)』を見る機会が増えることでしょう。拙欄でたびたび言及していますが『疑問を持つ。自分に置き換える。目的を考える』という生活態度、学習動機がいつも以上に子どもたちにリアルに響いてくれると期待せずにはおれません。そして上掲3項目をもっとも平易に換言したものが『読書』である事実も無視できません。活字に親しみ(まずは『楽しいものである』という認識が理想的です)、できるかぎり多分野の文章に触れたいです。チャンネル過多の一方で第三者的視座が失われやすいかもしれません。『世界』を話す機会が楽しみです。
2023年11月
今年は学校外部のスポーツクラブや習い事を積極的に取り組んでいる生徒が多いです。いろんなタイプの生徒がいることは塾の強みとなりますので嬉しい限りです。一方で、勉強時間の確保との天秤にかけられる現実は否定できません。お子さんは辛く厳しい練習といつもの勉強とであればほぼ前者を選びます。その判断を支持するためにも特にテスト前は計画的な準備が欠かせません。さて、卒塾生のひとりでボーイズ→甲子園夏→六大学→社会人野球と進んでいる生徒がおります。私が関わったのは外野球時代の中学3年間だけですが、甲子園出場から大学進学まで報告をしてくれました。練習オフの日に塾を入れていた彼はテスト前は必ず塾を選択しました。これは彼にとって『しんどい方の選択』だったからです。貴重な練習や大事な試合の意味を認識しつつ、その上で『しんどい方を選ぶ』ことで、逃げない、あきらめない、甘えない心を養ったのだと思います。
2023年10月
多くのお子さんがタブレットを用いた学習に慣れ、使いこなし、楽しんでおられます。一方でコンピューター・ベースド・トレーニング(CBT)の観点から、パイオニアたちが試行錯誤のツールとして築いてきた歴史の傍らで若いユーザーたちは失敗を嫌悪する印象を定期考査のたびに抱きます。このやり方でうまくいかなかったら別のやり方でぶつかってみる、そんな道のりは参照能力の高まりの前では単なる『時間のムダ』になってしまいました。「解説見たら分かりました」や「親に教えてもらって分かりました」と返すお子さんで、結局のところテストまで自分ひとりの力で乗り越える経験を経ていなかったケースは少なくありません。失敗した小説もなく、失敗した映画もなく、失敗したCDもなく、何ならGPS機能の発展で失敗した行き先も減ったことでしょう。失敗も遠回りもムダ骨も私は必要だと思うのです。実を言えば当塾の5科450点ホルダーたちは総じて要領が悪いです。